戦争法案 立憲主義・憲法に反する (6月4日憲法審査会)
衆議院会議録情報 第189回国会 憲法審査会 第3号
○大平委員 日本共産党の大平喜信です。
三人の先生の皆さんには、大変貴重な御意見をいただきまして、まことにありがとうございます。議論も後半になりまして、少し、準備をしている質問がほかの方とかぶるところもあるんですけれども、博識な先生方ですので、ぜひ多面的な御意見をいただければというふうに思います。
早速、質問をさせていただきます。
戦後の日本は、侵略戦争と植民地支配のもとで、アジアと日本国民に多大な犠牲をもたらし、その反省の上に立って、政府の行為によって再び戦争の惨禍を起こさない、このことを世界に誓って、再出発をしました。戦争放棄、戦力の不保持、交戦権の否認を憲法九条に明記して、徹底した非軍事、平和主義を定めました。
しかし、その後、日本の再軍備を求めるアメリカの対日要求によって、自衛隊が創設をされました。歴代自民党政府は、自衛のための必要最小限度の実力組織は憲法に違反しないと弁明をしまして、活動する地理的範囲でも、また装備の面でも、次々と拡大をしていき、九〇年代以降は、自衛隊を海外に派兵するまでに至りました。
私たちは、その都度、これは憲法違反だということを訴えまして、こうしたたくらみは断固許されないと訴え続けてきました。
しかし、ともかくも、戦後の日本政府の憲法第九条の解釈の根本は、一貫して、日本に対する武力攻撃がないもとでの武力の行使は許されない、つまり、海外の武力行使は許されないというものでした。
ところが、昨年七月一日の閣議決定、そして現在審議されている安保法制では、こうした従来の政府見解をも百八十度転換するような、そうした解釈改憲が行われています。つまり、日本に対する武力攻撃がなくても、政府が新三要件を満たしていると判断をすれば、武力の行使を認めるものとなっています。
三人の参考人の皆さんにお伺いをしたいと思うんです。
きょうは立憲主義ということが一つのテーマでもありますから、まずその点でお伺いしますが、こうした重大な変更を一内閣の判断で行い、さらに立法作業まで強行したことは、私は、立憲主義の破壊そのものであり、断じて許されるものではないと考えますが、こうしたやり方が立憲主義との関係で許されるのかどうかについて、三人の皆さんにお伺いしたいと思います。
○長谷部参考人 どうもありがとうございます。
内閣法制局を中心とする政府の憲法解釈を変更することが決して許されないのかということになりますと、私は、そうではないというふうに考えます。
現に、政府の憲法解釈は変更された例がございます。例えば、靖国神社への公式参拝の可否の問題でありますとか、自衛官と文民条項との関係が典型的な例として知られているところでございます。
ただ、これは先ほどの私の話と重なるところでございますけれども、昨年七月一日の、集団的自衛権も行使されることが許容される場合があり得る、あの閣議決定による政府の憲法解釈の変更は、要するに、あの閣議決定の文面自体が、基本的な論理の枠内であることと法的な安定性が保たれることを政府の憲法解釈変更の許容度を示す要件としているんですけれども、いずれの点でもやはり大いに欠陥がある。従来の政府の憲法解釈の基本的な論理の中におさまっていない。個別的な自衛権のみが許されるという、その論理によって、なぜ集団的自衛権の行使が許されるのか、その説明が十分とはとても言えないものであるというふうに考えますし、その変更の結果として、では、どこまでも武力の行使は許されることになったのか、その点も不明確でございまして、法的な安定性も保たれているとは言えないというふうに考えております。
その点におきまして、立憲主義に対してももとるところがあるというふうに私は考えております。
○小林参考人 閣議決定がやたら文句を言われますけれども、内閣は行政権を預かっているわけですから、そのために法律と予算を国会でつくってもらって仕事をしようということで、政策目標として閣議決定することは日常的にやっていることで、その行為自体は僕は問題ないと思うんですね。一内閣の閣議決定でとよく怒りますけれども。
ただ、その内容が、今、長谷部先生おっしゃったとおり、憲法の条文にも、そして内閣自身がというか日本国政府が積み上げてきた先例とも、ちょっと論理的に吹っ飛んでしまっている。これはもう、憲法を尊重して政治をしなさい、立憲主義に反する。そして、今その場は国会に移っているわけですけれども、国会が多数決でそれを承認する法律をつくってしまったとしたら、それ自体が国会による憲法軽視、これも立憲主義に反するということになりつつあると私は危惧しております。
以上です。
○笹田参考人 先生お二人方の御発言で大体尽くされているところはございますけれども、違った角度からお話ししたいと思います。
やはり、ワイマール、ドイツのことをふと思うんですね。そうしたときに、あのときは憲法裁判権というものはほとんどありませんでした。結局、大統領も直接選挙で選ばれていますし、議会も選ばれている。そして、大統領は緊急命令権をいっぱい出しまして、そうした中で、また、憲法の番人は大統領だとカール・シュミットという人が言い出しまして、それは一定の強さを発揮するわけですね。それはとめられることなく、ドイツは、ワイマールは崩壊していくということもあります。
日本においてはそういうことは僕はないだろうとは思っておりますけれども、私のきょうの報告の枠内で申しますと、先ほどから時々申しますように、どこかでやはりそれを少しクールに考える部門、場所が必要なのではないかなということを思っております。
以上でございます。
○大平委員 ありがとうございました。
今度の安保法制の内容について、改めて、現行憲法の範囲内で許されるのかどうか、このことについて、次にお聞きしたいと思います。
今度の法案では、非戦闘地域という概念を取り払い、自衛隊の活動範囲が拡大をし、そこで、戦闘行為と一体不可分である兵たん活動を行うこと、また、米軍等の部隊の武器等防護、こうした武器使用の権限が拡大すること、そして、集団的自衛権行使による他国領域内での敵基地攻撃についても憲法解釈上は可能だという答弁もありました。
私は、このどれをとっても、明らかに、先ほどもありましたが、憲法九条の一項、二項に反していると考えますが、先生方のこの法案の内容についての御意見を伺いたいと思います。
○長谷部参考人 現在審議されております安保法制と言われるものは、極めて多岐、広範に及ぶものでございますので、内容については一つ一つ本当は議論しなくてはいけないことでございます。
例えば、私は、PKO活動に参加する自衛隊の武器使用の範囲の拡大については、必ずしも直ちに憲法に反するというふうには言えないところがあるとは思います。
ただ、先ほども申し上げたことですけれども、他国の軍隊の武力行使との一体化の問題に関しましては、従来の政府の見解というのは、よくこれは大森四要素と言われる。具体的に言うと、他国の軍隊の武力行使の内容、そして自衛隊の後方支援活動の内容、両方の地域的な関係等を個別具体に総合的に考慮していく、その結果として武力行使の一体化が起こっているかどうかを決めるという話になるんですが、ただこれは、では現場の指揮官がその都度その都度判断できるかというと、それはそうはいかない。いかないものですから、一歩引いたところで、余裕を持って明確な線を引くというのが、戦闘地域と非戦闘地域を分ける、そういう工夫であったはずであります。
この非戦闘地域、戦闘地域の区別をなくしてしまうということになりますと、本当にその場その場の指揮官の判断に結論が委ねられるということになりますので、その結果として、武力行使の一体化が生ずるおそれが極めて高くなる、そういうふうに私は恐れております。
○小林参考人 長谷部先生は、一体化のおそれが極めて高くなるとおっしゃいましたが、僕は一体化そのものだと思うんです。
つまり、兵たんなしに戦闘というのはできませんから。要するに、アメリカのコンバット部隊が最前線でドンパチやっていて、あとの機能は全部日本が引き受けることができる法案になっています。ということは、例えは悪いですけれども、長谷部先生が銀行強盗に行くとき、僕が車で送迎して、強盗は彼で、私は何もしていません。共犯は正犯に準ずるわけですから、一緒に強盗したことになるんですよね。そういう意味では、これは露骨な戦争参加法案でありまして、もうその一事だけでも、私はついていけません。
以上です。
○笹田参考人 今の後方支援と兵たんのところでやはり一番大きな疑問を感じているところでございまして、今、小林先生のクリアな説明で私も十分、そうだろうと思っております。
○大平委員 内容の面でもう少し踏み込んで、少し横道にそれるのかもしれないですけれども。
今度の安保法制は、憲法九条にもそうなんですけれども、日米安保条約の取り決めからも逸脱をしているではないかという意見も伺いますが、皆さんの御意見はいかがでしょうか。
○長谷部参考人 御案内のとおり、日米安保条約というのは、それぞれ、締約国が各国の憲法の規定と手続に基づいてそれぞれの義務を果たすということになっておりますので、その点からいたしましても、憲法に反することはそもそもできないはずでございます。その点で、先ほどの私の答えと重なることになりますが、幾ら日米安保条約に基づいているからといっても、憲法に反することができるはずはないということになるだろうと思います。
○小林参考人 私も一点だけ。
日米安保条約というのは、これまでの私の理解では、アメリカと日本が一緒になって世界の警察をやるという話ではなかったと思うんですね。もっと事項とか地域に制限があったはずなんです。それをどうオペレーションするかのガイドラインでありまして、本体が変わっていないのにガイドラインで世界警察に広げてしまうというのは、これは全くの筋違いだと思います。
以上です。
○笹田参考人 私の報告の範囲とは大分ずれてきましたけれども、それを強く引きつけて言いますと、恐らくこういう議論は、司法の場でいきますと統治行為の議論がよく今まで出てまいったところでございます。
結局、先ほど私がカナダの例を御説明しましたところでありますが、統治行為、いわゆるポリティカルクエスチョンというような議論をどうするのかというのが、私のテーマでいいますと非常に重要でありまして、例えばドイツの憲法裁判所は、もう最初からそういうものはない。我々はそういうふうにコミットする、憲法の番人であるということをうたってつくられているわけです。そして、先ほど照会について述べましたカナダの最高裁も、そこはとらないと言っております。
ただ、我が最高裁は、かつてから、統治行為の理論というのは、ここ最近全く言われませんけれども、言ったこともございますので、私の議論に引きつけてきますと、そこはそれで、どういう場面で訴訟になるのか、これはいささか理解に苦しむところがございますけれども、そこは議論の余地が出てくるかなと思っております。
以上です。
○大平委員 ありがとうございました。
きょうの質疑を通じても、やはり安保法制の問題点が浮き彫りになったと思います。徹底審議の上、廃案に追い込まなければならないとの決意も申し上げて、質問を終わります。
ありがとうございました。