「任期延長は濫用の危険」参考人が指摘(3月23日憲法審査会)
衆議院会議録情報 第193回国会 憲法審査会 第2号
○大平委員 日本共産党の大平喜信です。
参考人の皆様、貴重な御意見、ありがとうございました。
質問させていただきます。
災害時における緊急事態が議論をされておりますが、自民党の改憲草案の同条項では、災害だけではなく、むしろ戦争や内乱が先に挙げられております。そして、その本質は憲法原則である権力の分立と人権制限であり、まさに憲法停止条項だと私は考えております。
永井参考人は御著書の中で、この自民党改憲草案における緊急事態条項を、政府の独裁を認める極めて危険な内容と書かれておられますが、その理由を詳しくお聞かせください。あわせて、災害対処のために内閣に権限を集中させることが果たして有効な手段なのかについても御意見を伺います。
木村参考人にも、自民党草案の緊急事態条項についてどのように考えておられるか、御意見を伺いたいと思います。
○永井参考人 自民党案は、内閣総理大臣は緊急事態に緊急事態の宣言を行う、そのとき、内閣は法律と同じ効力の政令を制定できる、内閣総理大臣は財政の処分ができる、予算が議決できるというふうに定めています。
まず、目的についてなんですが、緊急事態の要件は法律で定められるとしています。そうすると、最初に憲法に大規模災害の場合と規定していたとしても、後に、戦争とかテロとかストライキとかあるいは大規模なデモとか、どんどん挿入していくことが国会の過半数の議決によって可能なわけです。
それから、措置の期間、これについての制限がありません。このような特別なことに関して制限がないというのは大変危険であると考えます。
逆に、百日を基準に持続することを予定しておりますが、参議院の緊急集会さえ請求できない場合にこれを実施するということは一応考えられますけれども、過去の参議院の緊急集会、二回ありましたが、最初は請求から五日目、二回目は請求から四日目に招集できています。百日というのは余りにも長過ぎるのではないかと思います。
それから、内閣は法律と同一の効力、同等の効力を有する政令を制定できるとしていますが、これについて、国会が機能しない場合という限定がありません。国会が閉会とか、衆議院が解散して、なお臨時国会あるいは参議院の緊急集会が求められない場合という限定がないわけです。大日本帝国憲法の緊急勅令さえ、議会閉会のときと限定したわけですが、国会会期中でも制定できるということになってしまいます。
そして、これは、事後に国会の承認を要するとしていますが、承認が得られない場合に効力を失うという規定がありません。財政処分についても同じです。大日本帝国憲法の緊急勅令さえ、事後に議会の承認が得られない場合は将来に向かって効力を失うという規定がありました。要するに、政府の立法と予算議決に対して国会の統制が全く及ばないということになります。
そして、政令で規定できる対象に限定がありません。全ての事項について政令が制定できて、緊急事態と無関係な政令も制定できるわけです。
例えば、熊本地震で緊急事態だといった場合、熊本地震と無関係な事項について、法律と同一の効力がある政令が制定できるということです。ですから、刑事訴訟法の改正もできる、公職選挙法の改正もできる、あるいは、前に出た安保法制のようなものも制定できてしまうということになるわけです。
これは、実質的には内閣に対して国会の立法権を全権委任する法律ではないかということで、私の方でそのようなことを書かせていただきました。私のお隣にいる木村先生は、内閣独裁条項というふうに書かれていたと思います。
以上です。
○木村参考人 自民党草案における緊急事態条項については、ここまで松浦先生、永井先生からも御指摘がありましたように、まず、やはり、法律にかわる効力、法律と同等の効力を持つ政令を発せられるという点については、事項の限定もなく、非常に危険であるというふうに指摘をされているところであります。
また、地方自治体への指示の規定が地方自治の否定につながりかねないこと、あるいは、国民の権利保障を保障ではなく尊重レベルに抑えるというような規定もまた人権保障を後退させるであろうということでありまして、文言について、自民党草案の文言のままでありますと、これは、緊急事態条項の導入に賛成する方から見ても大変危険なものに見えるということは否定できないことであろうかと思います。
私は、こちらにいらっしゃる自民党の議員の方も含めて、この草案にかかわった自民党の方々と意見交換をさせていただく機会を幾つかいただいたことがありますが、こうした指摘を自民党の方々に聞きますと、そこまで強いことは考えていないとか、濫用への歯どめが必要なのは当然であるということもまたしばしば強調されるところでございます。
したがいまして、善意で解釈をすれば、これは自民党の先生方が考えている内容に比べて文言がかなりきついものになってしまっているという可能性はございますので、そうなのであれば、これはもう一度自民党の中で検討をして、疑念のないような、きちんとした緊急事態条項として提案し直さないと、やはり疑念を向けられたままになってしまい、残念なことになるということを指摘しておきたいと思います。
○大平委員 ありがとうございました。
続いて、永井参考人、木村参考人にお伺いいたします。
国会議員の任期延長を憲法に明記すべきだという意見がありますが、私は、それは国民の選挙権の停止にほかならないと考えております。選挙権の停止により民意を問う機会を奪うことは、まさに国民主権の侵害ではないでしょうか。
その点で重大なのは、戦前、明治憲法では、先ほど来ありますが、衆議院の任期は法律で定められていたため、一九四一年に特例法により任期を延長することで、戦争を遂行するための挙国一致体制がつくられたことです。
この歴史の反省から、金森大臣は憲法制定議会において、国会議員の任期をみずから延ばすということは甚だ不適当であり、選挙によって、国会が国民と表裏一体化しているかどうか、現実にあらわされなければならぬと、国会が国民の代表として存在することの重要性を強調しています。だからこそ、国民主権が確立した戦後の日本では、いっときの権力者の思惑で簡単に任期が動かせないよう、憲法に明記したのだと思います。
この選挙権の停止と憲法の制定過程に関する御見解をお二人にお伺いいたします。
○永井参考人 学者ではございませんので、余り詳しいことはちょっと理解しておりませんが、まず、任期の延長が国民の選挙に関する権限を奪うのではないか、それはおっしゃるとおりであるというふうに考えております。
そして、本来予定されたときに選挙を行うということで、国民の方もそれに関して情報を集めている、そして議員の方もそれに対する情報を提供しているわけです。そのようなことに関して、任期の延長があるということは、それに反するものであります。
また、被災地についての、被災地域の住民の意思を反映するために任期延長すべきだという議論がありますが、被災地域の住民の意思を反映するのであれば、災害が発生した後の議員を選出すべきであって、その前の議員の任期を延長することは、これはおかしなことであるというふうに考えております。
それからまた、戦前のことなんですが、確かに任期が延長されたということがございました。これに関しては、簡単に言えば、このような国の緊急事態において選挙などで相争うような状態はすべきではないということで、国全体がその緊急事態に向けて一致して活動すべきだという趣旨からこれは延長されたものでございます。
これに関しては、この結果、どのようなことになったのか。緊急事態が遂行される、そして戦時体制になるということについて、この任期の延長が大きく寄与したことでありますので、私は、この過去の教訓からしても、そのような任期の延長ということは大変危険であるというふうに考えております。
○木村参考人 今御指摘いただきましたように、制定過程においては、任期の延長というものが権力の濫用につながるということへの意識は強くあったものというふうに思われます。
また、現在、任期の延長が提案される場合には、その歯どめのかけ方についての議論があわせ提案されることが私は乏しいと思っておりますので、こうした提案をされる方におきましては、ぜひとも、どうやって不当な濫用に歯どめをかけるのかという具体的な提案もあわせてしていただきたいというふうには考えております。
また、国民主権の侵害であるという点でありますが、当然これは、任期をきちんと守り選挙が行われることが、どのような憲法規定を置くとしても、憲法上の原則となるということは当然の前提であろうかと思います。
また、先ほど来強調されておりますように、選挙の時期や方法を法律で工夫することによって緊急事態に対応しやすい選挙の仕組みをつくることはまだまだ可能であろうというふうに思われますし、また、今のように自由な解散権の行使が認められている状況におかれましては、解散が自由に行われるということは、当然、選挙の回数がふえ、選挙が災害に当たってしまう可能性も高くなるということでございますから、解散権の制限ということは、今皆さんが御懸念されているような災害と選挙が重なってしまうという危険を減らす面でも、非常に有効な方法であろうということを指摘しておきたいと思います。
○大平委員 ありがとうございます。
続いて、松浦参考人と永井参考人にお伺いいたします。
松浦参考人は、いただいた資料の中で、ドイツでの緊急事態における憲法規定では、自然災害への対処は、一義的には各ラントの任務であり、連邦の役割は、ラントによる措置の補完だというふうに述べておられますが、この点について具体的に教えてください。
また、永井参考人も諸外国の憲法の緊急事態条項にお詳しいと思いますが、諸外国で、自然災害時に国に権限を集中させたり、あるいは議会の任期を延長するといった憲法の規定があるのかどうか、教えてください。
○松浦参考人 まず、ドイツの現在の基本法、憲法の中で、災害対応についてどのように規定されているのかということでありますが、そもそも災害対応に関しましては、ドイツは連邦国家でありますから、各州、ラントと言っておりますが、各州が立法権を有しております。
したがいまして、連邦憲法あるいは連邦法で災害対応を細かく定めるということはしておりません。各州の、これは災害防護法という名称でありますけれども、各州がそういった法律をつくりまして対応しております。
ただし、州の権限でありましても、やはり広域災害になりますと、各州単独、ばらばらで対応するというわけにはまいりません。そこで、やはり連邦レベルでの調整というものが必要になります。
つまり、基本としては各州が災害対応についての権限を持っているけれども、広域災害、あるいは一つのラント、州の中で起こった激甚災害について、その州だけでは対応できない、ほかの州の援助を求めるということも必要になってまいります。
基本法の三十五条が災害緊急事態について定めておるんですが、このような条文です。
その該当部分だけを抜き出しまして申しますと、自然災害または特に重大な事故の際の援助のために、ラントは、ほかのラントの警察力、ほかの行政官庁の人員及び施設並びに連邦国境警備隊及び軍隊の人員及び施設の提供を求めることができる、これが第二項。
それから第三項、自然災害または事故が複数のラントの領域に危険を及ぼす場合には、連邦政府は、これに有効な対処をするために必要となる限りにおいて、ラント政府に対し、他のラントに警察力を提供するよう指図し、並びに警察力を支援するために連邦国境警備隊及び軍隊の部隊を出動させることができる。
つまり、州を基本としつつも、連邦が、一つの州だけに任せておいたらこれは収拾がつかないという場合に、ほかの州に要員を提供しろ、警察力を提供しろということを指図する。あるいは、複数のラントに被害が生じる場合には、これは連邦がリーダーシップをとって、連邦機関から要員を派遣するというふうなことを例外として憲法に定めているわけであります。そういった意味で、州の権限ではありますけれども、連邦の行うべきことは多いということが言えます。
二〇〇二年でしたか、エルベ川とドナウ川が氾濫を起こしまして、広域災害になったケースがあります。このときには、連邦軍の兵士が四万五千人派遣されて、かなり大規模な災害対応をしたことがありますけれども、首都圏の機能が滞る、大都市圏の機能を喪失するというようなものではございません。基本的には、ドイツの場合には、洪水災害が主なもの、あるいは雪害ですね。地震災害はほとんど検討されておりません。そういった意味で、災害といいましても、日本ほどの激甚災害というものは想定していないんだろうと思います。
ただし、戦争事態、戦争の場合には、これは連邦の権限として、戦時における非戦闘員の保護、日本で言う国民保護でありますが、これは連邦の権限です。ですから、連邦の権限において、戦時における文民保護、住民保護というものは連邦法で定めております。
ついでに言っておきますと、九・一一、アメリカの同時多発テロ以降、戦時における文民保護というものと災害時における住民保護というもの、これが融合する傾向を示しておりまして、そういった意味では、連邦と州の協力体制というものは一層強化されたということが言えると思います。
○永井参考人 比較するのであれば、主要四カ国、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、そういうのを比較することが大事だと思うんですが、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカを見ると、災害の国家緊急権を憲法で定めるのはドイツだけです。あとは法律で定めています。日本も法律で定めています。
ドイツの基本法です。それは、先ほど松浦参考人がおっしゃったとおり、三十五条二項で、被災州の他の州に対する支援要請、それから基本法三十五条三項の広域の災害のときの規定ですね。あと、十一条二項に移動の自由の制限が規定されています。憲法で定めているといっても、どれほどすごいことかというと、たったこれだけしか定めていないんです。あとは州に権限を委ねている。
今言ったドイツのこの制度、日本のように、先ほど申し上げたように、内閣に一時的な罰則つきの政令制定権が発生するとか、あるいは人権の強度の制限があるとか、そんな規定はないわけなんですね。ドイツのこの制度に関しては、相互支援規定であって、日本では既に災害対策基本法や自衛隊法や警察法、災害救助法などで実現されております。
先ほど松浦参考人おっしゃったとおり、州が主体になる、そして、それに対しては、国が場合によっては補完するというのは、先ほど私が申し上げたとおりなんですね。要するに、被災地域の自治体が第一次的な権限を持って、それを国が後方支援するという形になるわけなんです。
日本の場合も、第一次的な権限は市町村が持つ、その後方支援を都道府県が行う、さらにその後方支援を国が行うという構造になっています。しかし、市町村が機能しなくなったら、そのときは都道府県がそれを代行するという規定があります。さらに、市町村が機能しない、都道府県も機能しない、そして、避難者が広域に及んだときは、国がこれに関して代行を行うという規定もあります。ですから、構造としては、同じ発想をしているんですね。
ほかの、フランス、イギリス、アメリカの法律の制度を見ても、第一次的な権限は市町村が持つんだ、国はこれを補完するという傾向は変わりません。
○大平委員 ありがとうございました。