国会議員の任期延長は国民の選挙権の停止に他ならない(3月16日憲法審査会)
衆議院会議録情報 第193回国会 憲法審査会 第1号
○大平委員 日本共産党の大平喜信です。
国会議員の任期延長を憲法に明記すべきとの意見が出ておりますが、それは国民の選挙権を停止することにほかなりません。
選挙権とは、国民主権の大原則を支え、実現するための極めて重要な権利であります。憲法前文の冒頭にも、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、」「主権が国民に存すること」「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。」と明記しております。そして、その権利行使の手段が選挙であります。したがって、選挙は、国民の民意が正確に議席に反映されるものでなければなりません。
国会議員の任期は憲法に規定されております。衆議院議員の任期は四年、参議院議員の任期は六年とし、三年ごとに参議院選挙が、その間に衆議院選挙が行われ、定期的に民意を国政に反映させていくことが定められているのです。
このように国会議員の任期を法律ではなく憲法上にはっきりと明記しているのは、戦前の反省からであります。
明治憲法下の一九四一年、衆議院議員の任期が立法により一年間延期されたことがありました。そもそも明治憲法には衆議院議員の任期の定めはなく、同任期は衆議院議員選挙法により四年と定められていたので、その特例法として、第七十六回帝国議会で衆議院の任期延長に関する法律案が可決され、一年延期されたのです。
その理由は次のようなものでした。
今日のような緊迫した内外情勢下に、短期間でも国民を選挙に没頭させることは、国政について不必要にとかく議論を誘発し、不必要な摩擦、競争を生じせしめて、内治外交上甚だおもしろくない結果を招くおそれがあるのみならず、挙国一致、防衛国家体制の整備を邁進しようとする決意について疑いを起こさしめぬとも限らぬので、議会の議員の任期を延長して、今後ほぼ一年間は選挙を行わないこととした。
こうして、多くの犠牲を生み出した戦争へと突き進むための挙国一致体制がつくり出されたのであります。
この歴史の反省から、金森徳次郎憲法担当大臣は、憲法制定議会において、任期延長は甚だ不適当と明確に述べ、国会が国民の代表として存在することの重要性を強調しています。だからこそ、国民主権を確立した戦後の日本においては、いっときの権力者の思惑で簡単に任期を動かせぬよう、法律ではなく憲法に規定をしたのであります。
いわゆる緊急事態を理由に選挙権を停止するといいますが、そうした事態とは何かということが重大です。そこには戦争や経済危機、内政の混乱が含まれているのであり、その事態を引き起こした政府を排除し、国民が新たな代表者を選ぶ権利を行使すべきであります。これこそが国民主権と民主主義ではありませんか。その権利を停止するなどというのはもってのほかであると言わなければなりません。
なお、大規模災害に対しては、参議院の緊急集会の規定で十分に対応できると考えます。
以上のように、日本国憲法は、戦前の教訓から、権力者による濫用を排除し、民主主義を徹底するために、あえて緊急事態条項を設けなかったのであります。今出ている緊急事態のために憲法改正が必要だとする議論は、結局は、九条を改正し、国防軍を持ち、戦争する体制をつくることが目的であるということを指摘して、私の発言を終わります。