国会質問

2017年06月12日

統幕長発言は文民統制に反す(5月25日憲法審査会)

衆議院会議録情報 第193回国会 憲法審査会 第6号

○大平委員 日本共産党の大平喜信です。
 冒頭、統合幕僚長の発言は極めて重大です。憲法擁護尊重義務に反し、文民統制の原則を侵すもので、統幕長の罷免を要求いたします。
 前回の審査会で、安倍首相が期限を区切って改正の中身に言及したことは国会の発議権への介入であるとして、その重大性が議論になりました。
 私たちは、これが三権分立に反するものであること、改憲項目の絞り込みではないとの言明に反し、まさに憲法改正案の発議に向けたものになろうとしていることを指摘しました。
 民進党を代表して中川委員からは、審査会として抗議と発言撤回の決議を上げるべきだとの意見が出されました。これに対し、自民党の筆頭理事である中谷委員は、安倍首相の発言に縛られるものではないと述べたのであります。
 ところが、安倍首相はラジオ番組で、自民党の憲法改正原案を年内にまとめると述べ、憲法改正推進本部の体制強化と改憲項目を指示しました。これに対して、保岡委員も原案の年内取りまとめに意欲を示していると報じられ、船田委員も憲法改正について具体的な議論をすべき時期と応じるなど、まさに挙党体制で原案づくりへと突き進んでいるのであります。
 一体、前回の幹事会と審査会での議論は何だったのかと言わなければなりません。
 そうしたもとで、この憲法審査会で自民党の皆さんは一体何を議論しようというのでしょうか。安倍首相の指示に基づいて、改憲項目のすり合わせと発議の場にしようとしていることは明らかではありませんか。
 安倍首相の発言以降の世論調査でも、国民の多数は憲法を変えることを望んでいないことははっきりしています。私たちが繰り返し指摘してきたように、改憲案の発議に向かう審査会は開くべきではありません。
 安倍首相が指示した改憲項目も重大です。何よりも、九条改憲発言についてです。
 そもそも憲法九条は、戦争放棄、戦力の不保持、交戦権の否認を定めており、集団的自衛権を行使し、海外での戦争に参加することなど、到底認められるはずがありません。歴代政府自身が、自衛隊は自衛のための必要最小限度の実力組織であるから憲法に反しないとし、集団的自衛権は認められないとしてきたのです。
 しかし、安倍政権は、そうした歴代政府の解釈を一内閣の閣議決定で変更し、集団的自衛権の行使を容認したのです。
 これに対し、多くの憲法学者や歴代の内閣法制局長官、最高裁判所長官を初め国民各界各層から憲法違反という批判が上がったのは当然であります。
 安倍首相は、九条一項、二項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むと言いますが、それは安保法制のもとで集団的自衛権の行使を可能にした自衛隊を書き込むことにほかならず、断じて認められません。
 九条に自衛隊を書き込む危険性は、それだけにとどまりません。
 政府は、安保法制の審議の中で、行使できるのは限定的な集団的自衛権だと説明しましたが、今回、これを全面的に行使できるようにしようとしているのではありませんか。
 また、現行憲法のもとで、安倍政権は武器輸出三原則を撤廃し、軍事費を過去最高規模に更新し続け、軍学共同を進めているのであります。
 こうしたもとで、自衛隊を憲法に明記することになれば、日本社会の軍事化を一層推し進めることになるのは明らかではありませんか。これは、憲法の平和主義そのものを破壊し、二度と戦争をしないことを国の基本としてきた戦後日本社会のあり方を根底から変えることにほかなりません。だからこそ、国民は九条を変えることを望んでおらず、首相が国民的議論に値すると述べた自衛隊明記にも反対が多数なのであります。
 安倍首相は、同時に、教育の無償化と緊急事態条項も改憲項目として指示しました。
 そもそも、安倍首相は、まず九十六条を変え、憲法改正発議要件を緩和させることで憲法改正のハードルを下げ、その次に九条に手をつけようとしました。このやり方がこそくだという国民の批判に遭うと、次は、災害を理由に緊急事態条項が必要だと言い出しました。しかし、災害を憲法改正のだしにするなという批判が起こったため、安倍首相は、これまで一言も触れてこなかった教育の無償化を持ち出したのであります。
 結局、安倍首相の目的は、改憲ありき、何とか九条を変えようというものであることは明らかです。こうした安倍首相の姿勢に対し、憲法の私物化だという声が上がったのは当然です。
 さらに、安倍首相が提示した緊急事態条項は、三月二十三日、参考人質疑で、全ての参考人がその濫用の危険性を指摘しました。任期延長についても、必要ないという意見が大半でした。それがこの審査会の議論の到達点だったのではないですか。
 前回の審査会で、自民党の委員が、緊急時に国が人権を制約できることを憲法に書き込むべきと発言しましたが、本審査会での議論を全く無視したものと言わざるを得ません。
 次に、本日のテーマである基本的人権に関して、今何よりも問題にしなければならないのは、人権侵害の違憲立法である共謀罪法案についてです。
 内心を処罰することのできる共謀罪法案は、具体的に危険な行為がなければ処罰できないとする刑法の大原則を根底から覆し、表現の自由を初め憲法が保障する国民の権利を幾重にも侵害するものです。先ほどから議論のある知る権利やプライバシー権を侵害するのが、まさにこの共謀罪法案だと言わなければなりません。
 しかし、安倍政権は、法曹界、研究者、言論人、そして国民からの憲法違反だ、監視社会になるとの多くの批判を無視し、この違憲立法を数の力で強行しようとしています。
 国連プライバシー権に関する特別報告者は、表現の自由への過度の制限になるとの強い懸念を示し、日本政府は、立ちどまって内省を深め、世界基準の民主主義国家としての道に歩みを進めるべきと述べています。安倍政権はこの指摘を重く受けとめるべきです。
 明治憲法下の日本では、軍機保護法、国防保安法、そして治安維持法などによって、政府に都合の悪い事実は秘密にされ、国民生活の隅々にまで監視が強められ、不当な逮捕と拷問による自白の強要が繰り返されました。こうして侵略戦争へと突き進んでいったのです。
 この戦前の痛苦の反省から、日本国憲法では、法律によっても侵すことのできない権利として表現の自由や思想及び良心の自由を明記するとともに、三十一条の法定手続の保障から拷問の禁止など四十条まで、十カ条にも及ぶ刑事手続を規定したのであります。
 秘密保護法、盗聴法、戦争法、そして共謀罪法案を強行する安倍政権が目指すのは、国民の目と耳と口を塞いで物言えぬようにし、日本を戦争する国に変質させることです。まさに九条改憲発言と一体のものであり、決して許されません。
 最後に、自民党改憲草案についてです。
 自民党改憲草案は、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」とした九十七条を全文削除しています。これは、基本的人権の尊重という憲法の目的を真っ向から否定するものであり、ここに自民党の本音があらわれていると言わなければなりません。
 日本国憲法は、三十カ条にもなる豊かで先駆的な人権条項を明記しています。この内容は、生存権の保障を求めた朝日訴訟や公害被害に対する救済運動を初め、戦後七十年間、国民の幾多の闘いによって深められてきました。
 今求められているのは、医療、介護、子育てや教育など、暮らしのあらゆる場面で憲法を実現させる政治を行うことであり、憲法を変えることではないということを改めて申し上げて、発言を終わります。
○森会長 次に、足立康史君。